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きのこの山をめぐる冒険(London 編)

 

フィンランド火山の噴火!ヒースロー国際空港閉鎖!ロシア機墜落! どんよりとした記事が連日、新聞の一面を占める。ほんとうに行くのか、こんなときに。私の臨床研究は、<アレルギー性呼吸器疾患における環境真菌の重要性>である。アレルギー疾患には、抗アレルギー薬。だめならステロイド。本当にそうであろうか。2007年、環境真菌関連アレルギー性気道疾患研究会(FACS-JAPAN)を発足、国内外の研究者たちと共同研究をはじめていた。LondonのChung教授から、難治性咳嗽(がいそう;せき)患者の喀痰真菌培養が届いたのは、2009年ボージョレヌーボー解禁の夜であった。世間がワインでにぎわうころ、私は、Londonから届いたシャーレを手に取り興奮した。Londonにも環境真菌による咳嗽で苦しんでいる人たちがきっといる。なんとしても行かなくては!そんな決意さえも、揺らぎそうなタイミングであった。

6月のLondonは爽やかだ。この季節に英国におとずれると、一度は留学してみたくなるらしい。 2年に一度開催される咳嗽研究の国際学会(International symposium on cough) も今年で6回目を迎える。日本からは私を含めて5人が参加する。

すがすがしい朝。圧倒的なポテンシャルとエレガンスをもちあわせる美しい車が次々と通り過ぎる。腹の底に響き、耳元に残るエンジン音。ここはLondon。会場は、Royal Brompton Hospitalの角を右に曲がると、まもなく見えてくる。

ヤケイロタケは、慢性咳嗽と関わりが深く、スエヒロタケは気管支喘息の原因となる環境真菌だ! 地球温暖化にともない海面の温度が上昇すると、頻繁に台風が到来するようになり、山野の倒木にきのこが繁茂する。きのこの胞子が街の家屋に入り込み、アレルギー疾患を惹起する。環境真菌とアレルギー疾患の問題は、地球温暖化と密接な関係があり、現代社会につきつけられた重要な問題に違いない!

2009年は、金沢大学呼吸器内科 藤村政樹臨床教授のご指導のもと、新しい疾患概念<真菌関連慢性咳嗽(FACC); 抗真菌薬が有効な咳嗽>を皮切りに、これまでの一連の研究が米国誌(アレルギー性真菌性咳嗽; AFC)、英国誌に掲載された年であった。

ここでの口演は、<ヤケイロタケの胞子に感作されると、咳嗽は難治化する>という、ヤケイロタケ3部作の集大成でもあり、会場からの質問に確かな手ごたえを感じた。

London入りして4日目の夕方。ホテルに戻った私は、ボージョレのあの夜以来の興奮を覚えた。初日にホテルでサンプリングしたシャーレに、問題の真菌が培養されていたのである。よーし、きたっー!Londonにもヤケイロタケは存在するのだ!! 

最終日、London郊外のウィンブルドンの空の下 Widdicomb先生宅でホームパーティーが開かれた。3日間にわたって討論しあった研究者たちが、先生からウェルカムワインをいただき、奥様の手料理で迎えられた。なんともアットホームな雰囲気、ゆるやかな時間。<また来るかね?>声をかけてくださったのはChung教授。<もちろんです。CIC患者さんの痰からも、きっとヤケイロタケが検出されると思います。> 

カビひとすじ。思えば遠くにきたものだ。

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