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第32回 空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会(東京2015.4.21.)

9th Asian Aerosol Conference (Kanazawa June 24-27, 2015)に参加して

 

≪先生をアンコールへお連れしたいですな。

アンコールワット。自然と遺跡が調和した世界文化遺産。

息を呑まずにはいられない、神秘的な光景。

是非、先生をアンコールへ。。。。。≫

うつらうつらしていたようだ。

倒しすぎたシートを少し起こした。軽井沢を通りすぎたあたりだろうか。

アテンダントが‘何かお飲み物は?’という微笑みをかけてきた。

 

アレルギー性呼吸器疾患と担子菌(きのこ)の臨床研究が進むにつれ、自然環境そして室内環境に関わる研究者達の中に顔なじみが増えた。

「先生のカビの研究を、来年度のプロジェクトに組ませていただきたいのです。」

「無理ですよ。おなかが弱いんで。」

「大丈夫。一週間くらい下痢をすれば慣れるもんです。」

そんな会話のうちに、少しずつ惹かれていたのかもしれない。

もしかしたら、一度は見ておかなくてはいけない光景が、本当にあるのではないかと。

 

第32回 空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会 

招請講演の会場は、早稲田大学会議場。

スポットを浴びた壇上から、客席を徐々に見上げてゆくと、かなりの急勾配で人影が暗闇にまぎれてゆく。医学系の参加者はいない。ほとんどが、工学系のスペシャリストだ。

― ヤケイロタケが慢性咳嗽と関連が深いこと。スエヒロタケが副鼻腔炎や肺障害を起こすこと。そして新規疾患概念;スエヒロタケSAMの提唱。黄砂に含まれているヤケイロタケは本当にアレルギー性呼吸器疾患を増悪させるのか?―

Awayでは、聴講者の反応を摑みにくく、どちらかというとnegativeに考えがちだ。 

 

「楽しかったですよ。先生のお話。まっまあ、飲んでください。」

ヤケイロタケはね、当社が手掛けた美術館でも、よく出るやつなんです。まさか、アレルギーの病気をひきおこしていたとはねえ」。

 

「先生、黄砂というものは、宇宙から見なきゃだめなんですよ。地球環境はね、上から見るでしょ、こう。で、流れが見えてくるもんなんです。」

 

「突然すごい雨が降ってくるわけだ。舗装なんてされていない。水たまりができるだろ。そこへ、バイクが突っ込んでくるわけだ。バーっとね。露店にならべてある食べ物がね、泥水ぶっかけられちゃうんだ。それ、食べてるわけ。カンボジアだからな。」

 

最新の空調設備、工学技術を駆使して、“清浄環境の提供”を考えている彼らにとって、

環境真菌の問題は、決して無関心ではなかったようだ。懇親会では、アルコールの勢いも手伝って、“専門家”と名乗る先生方が、プチ討論会で持論を展開し“環境真菌退治の策”をめぐらせたようだ。結局、『問題とする真菌アレルゲンが、室内空間と外気とどちらに多く存在するのかを明らかにしなければ、議論がはじまらない』ということに収まったらしく、この10月にはKG大学の研究班が、金沢の患者宅に派遣されることになった。

 

50歳も過ぎれば、“自分ご褒美”が必要だ。

人にわかってしまう贅沢品などには興味はない。

乗ってみるのだったら、招請講演の帰りと決めていたが、

立派すぎるシートは、創作活動には不向きだ。原稿も仕上がらなければ、思い浮かんだ旋律さえ書きとめられなかった。おそらく“なにもしないという贅沢”が求められる空間なのだ。差額に価値を見出そうなどという姑息な作戦は、陽あたりの良い丘陵を思い浮かべることができないワインを口にした時点で失敗に終わる。どうやら、自分ご褒美を受け取りそこなったようだ。こんな時は、“蛍の光”が流れる閉店まぎわのデパチカに限る。そこには極上の笑顔が約束されている。

 

「先生。今度、国際学会ですよ。6月。金沢です。」「金沢で国際学会?」

「Asian Aerosol Conference。AACです。基調講演お願いしますよ。」

メーカーのブースでは、各社、最新機器を得意げにPRしている。各国の色彩感あふれる熱気が4日間にわたって会場周辺に漂った。<担子菌とアレルギー性呼吸器疾患>。発信さえしつづけていれば、そこに何かを見出す誰かがきっといる。

「あのスライド、アンコールワットですよね。夜の帳が下りる直前の、密林のワット遺跡群。先生からのメッセージのようにも思えましたが。」

― つながなくてはいけない。若い研究者たちに繋がなくては ― 

 

11月に入って、TK大学の学生さんから、手紙が届いた。

― おかげさまで、学位論文通りました!本当にありがとうございました。―

ヤケイロタケのPCR解析に関する論文だ。ペコリと頭をさげた彼女の微笑みが思い出され、なによりの“ご褒美”になった。

 

「先生、もう乗った? グラン・く・ら・す!」  

「まさか。乗るわけないだろ。。。」

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